機関誌「ミドリ」について


2017ミドリ106号「引地川源流の森 泉の森」その1

ミドリ106号
2017年秋号


ミドリ106号

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はじめに

 トラスト緑地として保全され、大和市のキャンプ場や自然観察施設も充実し、たくさんの人々で賑わう泉の森緑地。
 1989年にトラスト保存緑地第3号の保全が開始され、自然観察センター設置を経た現在の取り組みについて、同センター「しらかしのいえ」の石丸勇介さんに話を伺いました。

自然観察センターしらかしのいえ
石丸 勇介
 
泉の森の成り立ち

 神奈川県大和市は相模原台地の中央に位置し、北から南へ緩やかに傾斜した地形で起伏はほとんどありません。 そのため、昭和30年代後半から昭和50年代(1960年代~80年代)にかけて急激に都市化が進み、多くの緑地が失われていきました。 しかし、大和市のほぼ中心に位置する緑地「泉の森」は約42haにわたって引地川源流の森が広がっています。 これほどの面積の緑地が保全されてきた理由は、2つあります。
 まずは厚木飛行場の存在です。 泉の森は厚木飛行場の滑走路の延長線上に位置し、現在でも多くの軍用機が泉の森の真上を通過していきます。 今でこそ軍用機の性能は良くなりましたが、以前は部品落下や墜落などが相次ぎ、泉の森の周辺地域でも軍用機の墜落で5名の方が亡くなっています。 そこで、国は周辺住民の土地を買収して緩衝緑地として管理してきました。
 もう一つの理由は、引地川の源流である大和水源地です。 湧き出た水は、平成4年まで西鶴間地区約1,900戸の生活飲料水として利用されていました。そのため、水源池の周りはフェンスで囲まれており、周辺の林も保全されてきました。現在は酒匂川水系や他の水源で十分に足りているため、渇水時の非常用として利用されることになっています。
 そうした理由によって大きな面積の緑地が残されてきましたが、時代とともに軍用機の墜落はなくなり、大和水源池の水も生活飲料水として利用されなくなりました。 そんな中、ここを含め引地川周辺の4か所の緑地を有効活用するため、大和市が公園として整備する「引地川水系自然公園基本計画」を打ち出し、その一部である「泉の森」は昭和62年度~平成8年度に約15億円をかけて整備が進められました。 さらに、公園施設として、野外炊事ができる「泉の森ふれあいキャンプ場」、江戸時代の古民家2棟を移築・復元した「郷土民家園」、園内の自然情報を発信するためのビジターセンター「自然観察センター・しらかしのいえ」が整備されました。 こうして泉の森は大和市最大の緑地として保全され、現在では多くの来園者にさまざまな形でご利用いただいています。
 なお、平成9年にオープンしたしらかしのいえは、自然に関するさまざまな活動の拠点となっており、館内の展示スペースでは、園内の自然情報を発信したり、園内で捕獲した生物を展示したりしています。 また、しらかしのいえを管理している(公財)大和市スポーツ・よか・みどり財団では年間を通してさまざまな行事を開催しており、プロ・ナチュラリストによる自然観察会や外来種を使用した草木染め、泉の森ふれあいキャンプ場を利用した野外炊事など、毎年多くの参加者から好評をいただいています。 しらかしのいえの完成とともに設立された「しらかしのいえボランティア協議会」もここを拠点として、8グループのボランティアが動植物の保全や調査、植物の手入れ、工作物の修繕など、多岐にわたって活躍しています。 行事の企画・運営に力を入れているグループもあり、自然観察会や野鳥観察会のほかにも、親子で楽しめるクラフトや樹木にスポットをあてて行う観察会などさまざまな行事を開催しています。
 施設の他にも、園内は常緑樹林、落葉樹林、草むら、小川、池など多様な環境があるため、年間を通して約600種の植物や約80種の野鳥が観察できます。 管理作業も生物多様性を考慮し、昆虫や野鳥のために広場の草を一部刈り残したり、外来種を積極的に駆除したりしています。 そのほか、財団職員とボランティアで園内を巡回し、問題箇所を指摘するだけでなく動植物の管理状況を共有する点検作業を年に3回実施し、来園者が自然観察を楽しめる環境を整えています。
 しかし、泉の森の水辺に生息する生物は、年に数回は厳しい環境にさらされます。 それは、集中豪雨時に川の氾濫を防ぐため、一時的に貯水することができる「調整池」として泉の森の水辺が整備されているからです。 泉の森北部地域(国道246号線・県道50号線・小田急江ノ島線・大和市と座間市の境界で囲まれたエリア)の雨水が調整池に流入するため、水位が最大で4mほど上昇することもあり、水辺エリアは水没してしまいます。 すると、アヤメやハナショウブを含めさまざまな生物に影響があるほか、泥をかぶって臭くなってしまう場所があったり、雨水に運ばれてきた種子が発芽して見慣れない外来種が発生したりすることもあります。
 整備されたエリアがある一方で、未整備のエリアもあります。 しらかしの池の西側急斜面に広がるシラカシ林は、相模原台地の昔の景観を今に残す貴重なものとして、昭和42年に神奈川県の天然記念物に指定されました。 他にも、園内には人工的に植林されたスギやヒノキが多く残されていますが、針葉樹林は1年を通して暗いので、人にとっても利用しにくく、生物多様性も低くなります。 水辺周辺など人がよく利用するエリアは、人も生物も利用しやすい広葉樹に転換を図っています。
 さまざまな楽しみ方ができる泉の森は、自然が豊かな環境でありながら車や電車でのアクセスも良く、年間を通して多くの来園者で賑わいます。 ぜひご来園ください。

 

写真:しらかし池のふれあいステージ

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2017ミドリ106号「引地川源流の森 泉の森」その1

目次
①その1 泉の森の成り立ち
その2 泉の森の生きものたち
その3  泉の森の生きものたち2

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ミドリ106号

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表紙:ターン・ハウズ湖

自然への一歩 桜ケ丘 親子むしとり大会
ピーターラビットTM
ナショナル・トラスト[後編]
大東文化大学教授 河野 芳英
自然への一歩 憩いの場 大和市泉の森
引地川源流の森 泉の森
しらかしのいえ 石丸 勇介
一里塚・
四方山話2⃣
「シカの声」
神奈川森林インストラクター 石原 和美
平成28年度
事業報告及び決算報告
イベント 各種イベント・森林づくり活動ほか