「ピーターラビットTMとナショナル・トラスト」について


         
はじめに

 2016年、絵本の『ピーターラビットのおはなし』の作者であるビアトリクス・ポターTMが生誕150年を迎え、日本でも大規模な催しが次々と行われ、今もなお愛らしいキャラクターたちは多くの人々を魅了し続けています。
  そのビアトリクス・ポターは英国のナショナル・トラストにとって大変重要な人物でした。
 このたび、ポター研究で知られる河野芳英さんにお話しを伺いました。


 

写真:現在のレイ・カールス

 『ピーターラビットのおはなし』の作者ビアトリクス・ポターに大きな影響を与えた人物のひとりにハードウィック・ローンズリーという牧師がいました。1878年、湖水地方に赴任したローンズリー牧師は、ひと目でその奇跡のような自然の美しさに心を奪われるのです。
 ローンズリーが赴任した教会から歩いて5分ほどのところに、ウィンダミア湖を見下ろす「レイ・カースル」という大きな城のような屋敷があります。彼が着任した頃は、この建物は貸別荘になっていました。1882年7月、ビアトリクスは家族とともにバカンスを過ごすため、ロンドンからこのレイ・カースルにやって来ます。ここでポター家の人々を出迎えたのはローンズリー牧師とその妻エディスでした。

ビアトリクス・ポター(左)
ハードウィック・ローンズリー(右)

 ポター家の人たちと会った時には、湖水地方の伝統についての最初の論文を書きあげたところで、この地の美しい自然や伝統を守り、後世に残す必要があると情熱的に語る姿は、多感な年齢のビアトリクスに大きな影響を与えることになります。
 ポター家がロンドンに戻ると、ローンズリーは湖水地方の自然保護という活動に本格的に取り組みます。ダーウェント湖の西岸の美しい土地に沿って鉄道が走る計画があり、この風光明媚な自然には鉄道はまったく不要である!ローンズリーはすぐさま鉄道計画に反対する「防衛基金」を組織し、持ち前の行動力によって、この計画を断念させることに成功します。
 その後も彼はさらなる自然保護を求めて、旧知の弁護士のロバート・ハンターや社会活動家のオクタヴィア・ヒルたちを同志にして「ナショナル・トラスト」の設立に奔走します。
 1893年、ビアトリクスは昔の家庭教師の息子ノエル・ムーアに一通の絵手紙を送ります。
 その時の絵手紙は次のような書き出しの絵手紙でした。主人公はビアトリクスがペットとして飼っていたピーター・パイパーをモデルにしました。   悪戯者のピーターは母親の言いつけを守らず、マグレガーさんの畑に入って野菜を食べます。食べ過ぎてしまったのでしょう彼は腹痛に良いとされるパセリを探しにいきます。キュウリの苗床の角を曲がったところで出くわしたのは何とマグレガーさん。ピーターは追いかけられ、捕まりそうになります。しかし何とか逃げ切り、モミの木の下の家に戻ることができました という物語です。
 その後もビアトリクスはムーア家の子どもたちに絵手紙を送っていました。母親のアニーが自分の子どもたちに送ってくれた愉しい絵手紙を元にすれば「小さな子ども向けのおもしろい本が作れるのではないか」と提案したのは、1900年のことでした。
 人気絵本作家の作品に自分の挿絵が採用されていたビアトリクスは妙案だと思い、以前ノエルに送ったピーターラビットの絵手紙はどうだろうか、と考えます。絵手紙に書いた物語と挿絵だけでは一冊の本にするには短すぎるので、文章をふくらませて、新たな挿絵も追加することにしました。
 ビアトリクスはこの物語に「ピーターラビットとマグレガーさんの畑のおはなし」という題名をつけ、いくつもの出版社に送ります。それまで多くの著作があったローンズリー牧師も送り先の出版社 をいくつか推薦してくれました。しかしどの出版社からも良い返事はもらえません。
 ビアトリクス・ポターの人生は、決してあきらめない人生でした。常に前向きに物事に向かっていく女性でした。出版社が出版してくれないのならば、自分の貯金で出版すれば良い。彼女はタイトルを『ピーターラビットのおはなし』と縮めて、自費出版することにしました。
 その頃、他人を思いやる心が旺盛なローンズリー牧師は彼女のテキストを教訓詩に書きかえて、ロンドンの出版社のフレデリック・ウォーン社に送ります。結局、彼のアイデアである押韻詩の絵本は却下されるのですが、ビアトリクスはこうした一連の心優しいローンズリー牧師への恩義も含めて、ナショナル・トラストの活動に協力していくことになるのです。
ミドリNo.105『ピーターラビットとナショナルトラスト』より(河野 芳英 氏)


写真:ヒル・トップ
1905年、ビアトリクスが絵本の印税などで購入したヒルトップ・ハウス 。
彼女は入手した土地と建物を、すべて英国ナショナル・トラストに寄贈。ウィンダミア湖、エスウェイト湖、コニストン湖周辺の土地、総面積で4,300エーカー、その土地に付随した16の農場、コテッジ・ハウスが20戸。(およそ東京ドーム366個分の広さ)


開催予定
~湘南グリーンコネクション2017~ 講演会「ピーターラビットTMの生みの親:ビアトリクス・ポターTMと英国ナショナル・トラストについて」河野 芳英 氏  大東文化大学 英米文学科 教授
2017 年11月25日(土)伊勢原市立中央公民館 展示ホール
参加無料
詳しくはこちらをご覧ください。

http://www.ktm.or.jp/contents/event/h29/D-01-shonan.html












































































































写真:ダーウェント湖


























写真:ノエル少年にあてた手紙